大判例

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札幌高等裁判所 昭和30年(う)272号・昭30年(う)269号・昭30年(う)271号・昭30年(う)273号・昭30年(う)268号・昭30年(う)270号 判決

各所論は要するに、本件はその原因である三井鉱山株式会社の不当な企業整備に対する徹回の要求貫徹を期するためになされたいわゆる公開大衆交渉なる正当な労働争議行為であるから、被告人等の行為は、労働組合法第一条第二項により免責せらるべきにかかわらず、原判決がこれを却けて被告人等の行為は争議行為の限界を逸脱するものとして被告人等を不法監禁罪に問擬処断したのは事実を誤認し、前記法条の解釈適用を誤つた違法があると主張するにある。

しかし、かりに所論にいう公開大衆交渉がその目的貫徹のための正当な労働争議であり、その大衆性に鑑み、多少の威圧は寛容さるべきものとしても、その手段としてなされた被告人等の本件所為は原判決の認定した事実を要約すると、小野坑長および堀江係長を各自室に訪れ、組合員等が企業整備に関する質問を求めているから出て回答して貰いたい旨要求し、各拒絶せられるや、待機中の青年行動隊員十数名を指揮してそれぞれその席から外に出させ、かくして小野坑長および堀江係長の両名を原判示角力場に連行し、かつ土俵上に押しあげて立たせ、一方土俵の周囲は逐次動員されて集合していた組合員およびその家族等数百名をして、円陣を作つて取り囲ましめ、更にその外周は青年行動隊員に囲ましめて警戒せしめ、更にまた町内数ケ所に青年行動隊員を配置して内外の連絡を遮断する等して、右両名の脱出を全く不可能にしたうえ、右包囲された両名に対し、マイクを突きつけ、被告人等交々人員解雇の根拠等の釈明を要求し、「首きりは一方的であると認めよ」「今後首きり関係の業務を止めろ」「首きり反対の我々の空気を上司に伝えろ」等と申し向けて詰め寄り、この間小野坑長が回答を拒み、或は回答に窮して黙するや、口々に「何故いわぬ」「早くいえ」と怒鳴り、回答を得るまでは徹宵してもこの状態をつづける気勢を示して威圧し、他の組合員もこれに応じて罵声や彌次を浴せる等して発言を迫り、約三時間の長きにわたり、右両名を解放するに至らなかつたというにあつて、右の事実は原判決挙示の証拠で十分肯認することができる。

かかる被告人等の行為は、当時の諸般の事情を考慮しても、その威圧は寛容の度をこえ、社会通念上明らかに正当な権利行使の限界を逸脱したものであつて、不法監禁の違法性を阻却するものとはいい難い。したがつて原判決がこれと同一趣旨に出て被告人等を不法監禁罪に問擬したのは正当で、原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。

(中略)

検察官の控訴趣意について

原判決が被告人堂谷、同一ノ瀬両名に対する名誉毀損被告事件の公訴事実を認定しながら、右は労働争議の正当な行為として、労働組合法第一条第二項によりその違法性を阻却するものと判断し、右被告人両名に無罪を言渡していることは原判文に徴し所論のとおりである。

そこで按ずるに、所論挙示の証拠を総合すれば、本件名誉毀損の手段としての本件ビラの掲示をした前日、被害者藤本が社宅を引払うためトラツクに荷物を積込もうとした際被告人等において同人宅を取囲み、スクラムを組んで脱出を防止し、そのため同人は相当混乱したこと、また本件ビラの掲示によつてその妻子を傷心せしめた事実および藤本が希望退職をするに至るまで組合幹部から再三その飜意を説得されたことは認められる。しかし、本件記録に徴すると当時の組合としては、その不当とする会社の企業整備に死力を尽して反対斗争を展開し、会社の企図する希望退職を含めての人員整理に強く反対し、その撤回を要求する態度を堅持していたのであつてそのため、会社側とは刑事事件さえひきおこすまでに無理な団体交渉が繰りかえされている状態の最中であつたので、組合側としてはその内部において歩調の乱れるのを最も懸念していたこと、さればこそ組合幹部が藤本の希望退職について再三にわたりその飜意を説得したことがうかがえる。してみると、藤本に対する報復としては本件掲示の前日になされた前記行為で一応完了し、藤本の去つた後においては、同人に対する私憤というよりはむしろこれが他に波及するのを阻止して組合員の団結をはかるため前記争議行為の一環として本件が敢行されたとみるのが至当である。かかる事情と本件掲示のビラにより本人が害せられる社会的評価の程度等諸般の情状を併せ考えると、使用された文言等に妥当をかく憾みはあつても、社会通念に照し、本件労働争議行為としてその正当性を逸脱したものとは考えられず、またその必要性においても相当の理由があるものと解せられるから、原判決がこれと同一見解に立つて、労働組合法第一条第一項により被告人等の本件行為は違法を阻却するものとして被告人等に無罪を言渡したのは相当といわねばならない。論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 原和雄 裁判官 水島亀松 裁判官 中村義正)

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